浦安ってこんな街!
3.272025
浦安の老舗手芸専門店「けいとや」が2025年3月31日をもって閉店――60年以上の歴史と家族の想い

浦安で創業60年を超える老舗の手芸専門店「けいとや」。1980年に浦安駅前へ移転する前は、スクランブル交差点付近に店舗を構えていました。「バイパス通りの開通整備に伴い移転したんですよ」と、当時の様子を語るのは田中智之さん。長年、地域に根付いたお店として多くの人に親しまれています。現在もお姉さんの美由紀さんとご家族でお店を守り続け、手芸専門店「けいとや」と、洋品店「Studio YES」を45年以上営んできました。

母が始めた「けいとや」
「けいとや」は、田中さんのお母さまが自宅の一階を工夫し、創業したお店。元々編み物が好きだったことから、毛糸や生地をメインに扱いながら、化粧品や女性用下着なども販売する婦人向けのお店としてスタートしました。一方、お父さまは浦安から金町などへ行商に出ていたそうです。当時、女性が自らお店を始めることは珍しく、苦労も多かったとか。卸問屋に足を運んでも、相手にしてもらえないことも少なくなかったといいます。「卸問屋で商品を仕入れることすらも一苦労で、信頼を得るために、あたかも別の業者から仕入れたように見せるため、自転車にたくさん商品を積んで、卸問屋から買っていたほど、昔の商売は大変だったと思いますよ」と、田中さんが教えてくれました。

西友の前に移転した当時、高校生だった田中さん。その頃にはすでに西友はありましたが、「西友パートⅡ」はまだなく、行徳まで見渡せるほど何もなかったそうです。ご家族でお店を守り続ける中、「実はね、この建物の2階、今は美容室になっているけど、昔は親せきが喫茶店『リヨン』を営業していたんですよ」と田中さん。当時は調理の勉強をしていたこともあり、手伝いながらパフェやプリンなどを提供する喫茶店として営業していたとか。「TVドラマの撮影にも使われたことがあったけど、5年くらいで親せきが『もうやめる!』って言ってね。今思えば幻のようなお店だったなぁ」と懐かしそうに振り返ります。

喫茶店があったなんて驚きですね! もしタイムスリップできたら、当時の雰囲気を味わってみたいものです。「その頃はバブル期真っ只中で、やりたいことは何でもできるような時代でした。『けいとや』も順調で、手作りが日常の一部として当たり前の時代だったんですよ」と田中さん。そして、その頃お姉さんが同じ敷地の中で「Studio YES」という洋服店を開業。こうして現在の形へと進化していきました。


そのうちに新浦安駅の開発が進み、ショッパーズプラザが誕生すると、元町にあった多くの個店さんが出店。その流れに乗り「けいとや」さんも2階で約15年間営業していたそうです。その頃、田中さんは結婚し、奥様の清美さんがショッパーズでのお店を手伝い始めます。しかし、後半になるとチェーン展開する大型手芸店が進出し競争が激化。そこで新浦安のお店を撤退し、本店へ戻ることになりました。

それでも、商売の精神を大切にしていた田中さんは、新たな挑戦として行徳にも店舗を展開。「お店を残したい、できることはやってみないと!」という前向きな姿勢で、商売を続けてきました。しかし、お母さまの他界を機に、「この広いスペースで手芸店を続けるのはもったいないのでは…」と考えるように。「もっと小さな店舗に移ろうと親父を説得したんだけど、全然首を縦に振らなかったんだよね。母が始めたお店だから自分が店に立っている限りは守りたい、っていう気持ちが強かったんだと思う――」と振り返ります。


「時代が移り変わり、人々の生活も大きく変わりましたよね。生活が変われば、買い物の仕方も変わる。そればかりは仕方がないけれど、時代の波を受けた感じもありますね。親父も『もう好きにしていいよ』って。商売と共に生きてきたようなものだから、閉店することは悲しいですよ。持ち家だったからこそ、ここまで続けてこられたし、できることはやり切ったと思います」と語る田中さん。そして最後に、「自由になった~!」と笑顔を見せながら、昨年頃から考えていたという心境の変化について話してくれました。
閉店をきっかけに再開、新たな出会い
奥様の清美さんは、「ありがたいことに、閉店を決めてから若い世代の間で手芸ブームがきて、『もっと早く来てくれたらな~』と思うこともありましたが、多くの方々が足を運んでくれています。懐かしい同級生に再会したり、この閉店をきっかけに新たな出会いがあったりと、寂しさもありますが、良いこともたくさん感じています。長年働いてくれたパートさんたちとの思い出も本当にありがたく、30年、40年と、多くの方々に支えていただき、家族経営としてやってこれました」と感謝の気持ちを語ります。

そんな清美さんが、お店に立ちながら2023年から新たに始めたのが、日本伝統工芸の「つまみ細工」。もともとは、大学を卒業する娘さんの着物に合わせた小物を作るために教室へ通い始めたのがきっかけでした。次第に、近隣の方々にも「つまみ細工」の楽しさを伝えたいという想いが芽生え、店内でワークショップを開くように。今後も教室やワークショップの開催を考えているそうなので、清美さんが展開する「くらふと 笑花」の活動からも目が離せませんよ。
以前の記事はこちらから
https://sumitai.ne.jp/urayasu/2024-04-11/128765.html
閉店後の「けいとや」の跡地については現在検討中とのこと。そして田中さんも、今後何か新しいことを始めるのでは? という雰囲気を感じ、真相はいかに…。


若い頃は気にもしなかったけれど、日常の風景がずっと変わらずにあるものだと、どこかで信じていました。小学生の頃、ドキドキしながら「けいとや」さんに手芸用品を買いに行ったことを今でも覚えています。大人ばかりの店内で緊張しながらも、知らぬ大人と接するあの時間は、今思えばとても貴重な経験でした。こうして大人になり、あの頃の思い出を語れることは、とても嬉しく、日常のありがたさを改めて感じます。今ではネットで何でも買える時代ですが、対面で買い物をすることで、温かい交流が生まれ、何気ない日常が思い出になることを実感しました。浦安にはまだまだ魅力的な個人商店がたくさんあり、それぞれのお店で新たな出会いが待っているのかもしれません。

「けいとや」さんは今月で閉店を迎えますが、お店を守ってきた田中さんご家族は、最後の日に向けて感謝の気持ちを込めた特別な何かを考えているそうです。店内では現在も半額セールを開催中。手芸用品だけでなく、アパレルや小物類もあるので、まるで宝探しのような楽しさがありますよ。終わりではなく、新たなスタートを決めた「けいとや」さん。これからも多くの方の心の中で、大切な思い出として生き続けることでしょう。

「けいとや」
浦安市北栄1-15-20
月曜〜土曜
10時〜19時まで
※日曜定休ですが、最終の3月30日(日)は営業
@urayasu_keitoya
2025年3月31日をもって閉店
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