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【オリジナル短編小説】ホテルのレストランにて

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浦安にはホテルがたくさんあります。今回はホテルでのランチ体験を元に書いたオリジナル短編小説をお届けします。さて、題材になっているのはどこのホテルでしょうか? 想像しながら読んでみてください!

***

 客のささやかな談笑が聞こえる。
 窓際の席へと通され、柔らかそうな椅子に腰を下ろす。平穏な日常に品を取り入れようと、ホテルのランチへ赴いた今日。

 私は高揚していた。
 理由の一つとして、久々の外食であるという事。何も資金を躊躇っている訳ではない。偶に訪れるからこその特別感は計り知れないものがあるからして、これは意図的な行動だ。もう一つ理由を挙げるなら、それはスパイス。つまり、調味料だ。余程の料理好きでない限り、家庭で三種類以上のスパイスを使う機会などない為、余計に舌が敏感になるのである。加えて、このホテルというもの、日本初上陸のブランドときた。私のこの胸の高鳴りは期待以外の何者でもないだろう。

 店内は実にデザイン性に長けた細長い空間で、壁際には幾何学的な棚にパスタ瓶や果物瓶がディスプレイとして置かれていた。窓越しにはテラス席もある。今日は生憎の天気でとても座れたものではないがテラス席自体、普段歩き慣れた歩道に面しているが為に、入店する前から室内席にすると硬く誓っていた。新浦安にはホテルが嫌という程あるので、レストランなどを利用する機会も多く、それ故に非日常を壊したくないこだわりが無意識に働いていた。

 メニューは既にテーブルに用意されていて、一時の逡巡ののち、ポワソンに決めた。多くの人は肉料理やパスタを注文するが私個人の経験上、肉料理は肉専門の店を選ぶべき、パスタは味が似通っている場合が多く慎重になるべきなのだ。こういう場所だからこそあえて魚料理という少数派を注文する事によって、店の真価が問われるというものである。

 シンプルなスーツに水色のアクセントカラーが特徴の青い瞳をしたボーイがバスケットカゴを携えて到着した。テーブル上へカゴが優しく置かれると、小麦の焼ける香ばしい匂いが鼻孔をついた。フォカッチャである。付け合わせのオリーブオイルにはビネガーが少しばかり加えられており、程よい酸味とマイルドさが食欲を一層引き立てる。パンにとって最善の作法であるちぎるという行為をすれば、歯形や唾液による封をする事なく、香り高く頂くことができる。

 黒い大皿との対比が実に美しい前菜に、涼しげな硝子に入った冷製スープを終え、いよいよメインディッシュへと到達した。コース料理の醍醐味は先へ進むにつれて気分が高まる仕組みや過程にある。つまりアプローチの贅沢であるのだ。

 程なくして、待望の魚料理が届けられた。
 本日の魚はメバルという脂が少なく淡白な白身魚である。揺らぐ波紋の装飾が施され、小舟のような形をした乳白色の皿にそれは運ばれてきて、実に鮮やかな彩りをしていた。ドライトマトの赤が散らされ、割に登場する豆類はソラマメであった。さながら、トリコロールの様な配色で構成されたその魚料理はオリーブオイルに浸り、香りから察するに白ワインで酒蒸しされていた。

 豪華なランチを堪能した私は後ろ髪惹かれる想いで食後のコーヒーを飲み干すと、ゆっくりと席を立った。

〜完~

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