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【オリジナル短編小説】境川沿いにて

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このご時世、何か出来る事がないかと模索した結果、文章を軸とした短編を書くことに思い至りました。未熟者ではございますが是非、ご一読下さい。

初回は、境川の河口近くに架かる、明海橋から高洲橋・入船橋にかけての川沿いを舞台とした何気ない日常の気づきを描いていきます。

***

爽やかな春風が頬を伝う。河沿い近くの木々は青々とした新緑を携えて戦ぎ、もう夏は近いのだと教える。毎年、私達を魅了してやまない桜は季節という絶対的なサイクルによって、あるいは人目を避ける様にして無慈悲に散っていってしまった。跡形もなく。

想いに耽りながら、境川という運河を辿る。雲一つない青空から降り注ぐ斜光は舗装されたアスファルトを熱し、橋下から猫が這い出てきては日光浴をしている姿が見えた。河口から三つ目に架かるクリーム色の橋下に彼は住んでいて、私が通り掛かるたびに無愛想な面構えをされたものである。私が初めてこの猫と出会ったのは曇天雨の中だった。体毛をずぶ濡れにして、猫特有のあの甘い声音を漏らす。けれども、私は餌を与える事も拾ってやる事も出来ない。人間社会という線引きを私は無意識の内に実行しているのだ。

上を見やれば橋下に設置された排水管の上に、鳩が数匹とまっている。人魂のように揺らぐ水面の反射を受けて尚、彼らは動じない。

ああ、やはりだ。と、思わず溜息が漏れる。人間とは苦悩しすぎていたのだと改めて気付かされる。

橋をつたって向う岸へと渡り歩く。緑道と言えるか分からないが、この道は少し変わったように思える。芝生の他に目新しく雑草が生茂るのは、初夏が近いのを示唆しているんだろうが、そういう事では無い。古びた角材の屋根を潜り抜けた後でふと分かった。植栽でさえ幾分も自然化して見えたのは「人の手が消えた」からだと。

ひび割れた赤いコンクリを踏みしめる。この辺りの住宅地には確か釣具屋があったと記憶している。小学生の頃、父親と自転車で訪れてハゼ用の餌を買った事がある。コルク片の様なものに埋もれ蠢くゴカイは実に不気味であった。懐かしんで、つい河岸に近寄って見下ろした。運が良ければたまにアカエイなどの珍しい魚影が見えるのである。けれども、当時の好奇心は現実という時間の流れに押し潰された。川底は濁り、最早、生物の痕跡さえも分からない。私はその時、先程と同じ感情を抱く。

今では通説となった放送が反響して流れだした。

水面には昔いなかった水鳥が浮かんでいる。

~完~

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