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【創業90周年】海苔とともに歩んだ浦安の歴史——「田中屋海苔店」老舗の誇りと100年へ紡ぐ未来

千葉県浦安市。かつて漁業と海苔の町として活気にあふれたこの地に、1936年(昭和11年)6月の創業から2026年で節目となる90周年を迎えた老舗があります。それが「田中屋海苔店」です。90周年とはすごい! おめでとうございます。

市内の小学校が社会科の授業でその歴史を学ぶほど、地域に深く根ざしてきた「田中屋海苔店」。今回は、三代目社長とそのお母様である田中弘子さんに、創業の成り立ちから、劇的な変化を遂げた浦安の思い出、そして100周年に向けた未来への思いについて詳しくお話を伺いました。

今回お話を伺った、(中)「田中屋海苔店」三代目社長 田中孝昌さん、(右)社長のお母様・田中弘子さん、(左)社長の妻・田中美緒さん。

1936年(昭和11年)6月、田中常徳(つねのり)氏によって「田中屋海苔店」の前身となる「乾海苔問屋 田中常徳商店」を創業。現在は三代目の田中孝昌さんとご家族がその伝統を受け継ぎ暖簾を守っています。かつては浦安産の海苔を取り扱っていたが、漁業権放棄後は千葉県富津市の漁業組合の入札に自ら直接参加し、厳選した最高級の千葉県産海苔を販売しています。浦安市内の海苔店で自ら入札権を持って仕入れを行う海苔専門店は多くはなく、徹底した品質へのこだわりと熟練の目利き技術を今に伝えています。

明治時代から続く海苔との縁——創業90年、そして100年の歴史へ

——まずは創業90周年、おめでとうございます。あらためて田中屋海苔店の歩みについてお聞かせください。

孝昌さん: ありがとうございます。当店は1936年(昭和11年)6月に初代の常徳が創業し、二代目である父・啓一を経て、私が三代目を引き継ぎました。現在は家族全員で力を合わせて店を切り盛りしています。

ただ、正直に申し上げると「当店には歴史くらいしか売りがない」という言い方もできるんです(笑)。浦安での海苔養殖が終了した現在、当店で扱っているのは浦安産ではなく千葉県富津産などの最高級の海苔です。だからこそ、伝統に裏打ちされた「海苔の歴史と本当の美味しさ」をお客さまにお伝えしていくことが私たちの使命ではと思っています。

弘子さん: 猫実にある現在の店舗も歴史を重ねてきましたが、かつては旧店舗で手仕事の温もりを残しながら海苔の加工や焼き作業を行っていました。長年地域のみなさまに愛され、建て替えやリニューアルを経ながらも、この地でずっと暖簾を守り続けています。

——田中屋海苔店の歴史

「田中屋海苔店」につながる田中家と海苔との関わりは、明治時代にまでさかのぼります。明治31年(1898年)、浦安地先の海で海苔養殖が始まりました。その礎を築いた一人が、田中徳次郎氏です。「将来、浦安でも海苔は有望な産業となるかもしれない」と可能性を見いだし、大塚亮平氏とともに養殖の成功に尽力しました。徳次郎氏の長男・常平氏は、のちに第五代浦安町長を務め、町の発展にも貢献しています。

その徳次郎氏の孫にあたるのが、田中常徳氏。大正6年(1917年)に生まれ、昭和4年(1929年)から日本橋の山本海苔店で丁稚奉公として修業を重ねました。そして昭和11年(1936年)に独立し、「田中屋海苔店」の前身となる「乾海苔問屋 田中常徳商店」を開業しました。

その事柄は浦安市教育委員会が発行している社会科副読本『わたしたちの浦安』で、社会科副読本として使われている地域資料(教科書)にも記述されるほど、大人よりも浦安の子どもたちの方がその歴史を知っているかも!

船で東京へ運んだ時代——浦安の漁業文化と海苔の記憶

——かつての浦安は海苔の産地として有名でしたが、当時の仕入れや町の様子はどのようなものだったのでしょうか?

弘子さん: 浦安の漁業権が全面返還されたのは昭和46年(1971年)頃ですが、実際に海苔の採取が一番盛んだったのは昭和30年代から40年代前半だったかな。当店は「仲買商」として地元の漁師さんたちから海苔を買い取り、東京の日本橋などへ卸していました。

当時の浦安はまさに「陸の孤島」。旧江戸川を船で渡って東京まで海苔を運んでいたんですよ。漁師さんによって海苔の仕上がり具合が違うので買い取り価格を変えたり、ときには生活用品と物々交換のような形でやり取りしたり。商店として地元の漁師さんの暮らしを支える役割も担っていたと思います。

——弘子さんの子ども時代の浦安の風景も気になります。

弘子さん: 私の幼少期は、道に貝殻が敷き詰められていて、近所の水路でザリガニを捕まえたりして遊んでいました。水路や畑が周囲にたくさんあり、自然が豊かでした。浦安駅のあたりは一面の畑や蓮田で遠くが見えて、富士見という地名は本当に富士山が綺麗に見えたからついた名前だと聞いています。

冬場(11月~3月頃)の海苔シーズンになると、畑一面が海苔の干し場になりました。夜中の2時半や4時といった暗い時間から海に出て海苔を採り、日が昇る前に干す。現在のディズニーリゾートや鉄鋼団地ができる前の、とても懐かしい浦安の原風景です。

「自ら入札へ」——徹底した品質へのこだわりと千葉海苔の魅力

——現在はどのようにして海苔を仕入れられているのですか?

孝昌さん: 現在は、千葉県富津市の漁業組合が主催する入札に私自身が直接参加して仕入れています。年に12回ほど開催される入札会場では、実際に海苔を1枚焼いて試食し、色艶などの見た目だけでなく「味」と「香り」を厳しくチェックします。中間業者を挟まないため、本当に良いものを適正な価格でお客さまにお届けできますし、何より自分の目で確かめた品質に責任を持てます。

現在、浦安市内で自ら入札権を持って参加している海苔専門店は、当店を含めてわずかしかありません。入札に参加するには組合員同士の強い信頼関係が必要不可欠なんです。

——千葉産の海苔にはどのような特徴があるのでしょうか?

弘子さん: 千葉(房総)の海苔は昔から「江戸前海苔」として親しまれてきたもので、口の中に広がる豊かな甘み・歯切れの良さが最大の特徴です。

有明産の海苔は真っ黒でツヤがあり高級品とされますが、千葉の海苔とはまた違った味わいがあります。浦安のお客さま、特に猫実・堀江地区などの昔から住んでいる方はご自身や親御さんが海苔を作っていた歴史があるので、「海苔の味にはとにかくうるさい」んです(笑)。だからこそ、嘘のつけない本物の千葉海苔を揃え続けています。

時代の波を越えて——100周年へ向け未来に

——最近ではWebやSNSなど、新しい情報発信にも力を入れられているそうですね。

孝昌さん: はい。お店では古くからの馴染みのお客さまも多く、お店では浦安の昔話をしているのですが、最近はWebサイトのリニューアルやSNS、YouTube広告などを見た若い方や遠方からのお客さまが増えています。自由研究で訪れる親子連れや、大学で地域歴史を研究している学生さんが来られることもあります。

弘子さん: 若い世代の手を借りてデジタル発信を始めたことで、葛西や横浜、茨城といった遠方からも「ホームページを見て来ました」とお買い求めに来てくださる方が増えて、本当にありがたいです。

——あと10年で迎える「創業100周年」に向けた思いをお聞かせください。

弘子さん: 現代では、地球温暖化による海水温の上昇で海苔の種付けや収穫時期がずれ込むなど、全国的に海苔業界は非常に厳しい状況にあります。ですが、まずは「暖簾を守り、愚直に続けていくこと」。これに尽きます。

100周年に向けては、地元の食文化と結びついた新しい商品づくりにも挑戦してみたいですね。

孝昌さん: 業界の先行きなど課題は山積みですが、浦安の歴史と文化を伝える語りべとしても、一歩一歩100周年へ向けて歩みを進めていきたいと思っています。

海苔だけではない

かつて東京湾の恵みとともに発展した浦安。埋め立てや都市化によって町の景色や産業構造は大きく変わりましたが、田中屋海苔店に一歩足を踏み入れると、そこには今も香ばしい海苔の香りと、旧店舗時代から引き継がれる温かい地域の歴史が息づいています。

店内には海苔だけでなく、お茶をはじめ、地域への思いが込められた他店舗のお菓子や新商品も並びます。お茶も海苔と同様、主に贈答用や家庭用として昔から親しまれており、静岡から厳選した銘茶を取り揃えています。店内ではお茶の試飲も可能で、取材時にはたまたま訪れていた高校生が、ご家族へのお土産にと試飲しながらお茶を選んでいる姿も。

また、海苔といっても種類はさまざま。子どもたちに人気なのは味付き海苔。明太子風味や、大人向けにお酒のあてにもぴったりな味付わさびが人気。これが本当に手が止まらないんです。

一言に海苔と言っても、商品によって香りや味わいはさまざま。田中屋海苔店では試食できる海苔が用意されているので、その違いを体験できるのも嬉しいポイントです。主に焼きのりを販売していますが、焼く前の「板海苔」の取り扱いも。ご自身で焼き入れをして風味を楽しむ方も多いのだそう。特別にその板海苔を試食させていただきましたが、焼き立ての風味がまったく違いました! 焼き上がりの香ばしい磯の香りを存分に味わいたい方にぜひおすすめです。

焼く前の板海苔は赤黒いような色をしていますが、これがトースターなどで数秒焼き入れするだけで、海苔の風味を色で表したような、緑色の海苔が完成! これが本当に美味。焼き上がりの味わいをぜひとも皆さんにも知ってほしいです。

浦安の歴史と「本物の千葉海苔」を未来へつなぐ場所

自ら富津の競り場に立ち、厳選した最高級海苔を届ける「田中屋海苔店」。90年の歴史を誇る老舗でありながら、SNSでの発信や新しい商品づくりなど、100周年に向けた挑戦を続けています。浦安散策のお土産や大切な方への贈答品、ご家庭での日常を彩るひとときに。職人が選り分けた本物の「味と香り」を、ぜひ店内の試食で体験してみてください。次のお休みには、老舗の暖簾をくぐり、ここでしか出会えない香ばしい海の恵みと温かい人柄に会いに行ってみませんか。

田中屋海苔店
浦安市猫実4-13-1
047-351-2722 
OPEN 9:30~17:30、日曜定休
駐車場有(3台)
猫実店舗以外にも、市内各所(※下記参照)やWEBからご購入が可能です。

公式ホームページ:田中屋海苔店
インスタグラムはこちらから

田中屋海苔店の商品が買える市内店舗
銘店銘菓しまむら イオン新浦安ショッピングセンター店(浦安市入船1-4-1)/カフェレストランすてんぱれ(浦安市郷土資料館内、浦安市猫実1-2-7)
※一部取り扱いのない商品もございます。

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