浦安ってこんな街!
10.292026
一枚の絵に、幾重もの時間を重ねて。銅版画で物語を紡ぐ絵本作家【大越順子】さん。『ナマケモノテーラー』絵本原画展 10/20(火)~10/31(土)まで会期中! @猫実珈琲店

秋風が心地よくなってきた頃、浦安・猫実にある「猫実珈琲店」さんで、秋にぴったりな展示会が開催されていると聞きつけ取材に伺ってきました! 猫実珈琲店さんはカフェとして憩いの場になっているだけでなく、オーナーの瀬古さんが愛する作家さんの作品や、素敵で可愛らしいものが集まる場所としても大人気。その魅力を求めて、日本各地からファンが訪れます。そしてこの秋お店にやってきたのは、なんと大阪から届いた素晴らしい絵本の世界でした。
素敵な縁
実は、大阪から遠く離れた浦安で展示が実現した背景には、猫実珈琲店オーナー・瀬古さんとの運命的な出会いがありました。
きっかけは瀬古さんが大阪を訪れた際のこと。たまたま紹介されて足を運んだギャラリーで出会ったのが、まさに大越さんの作品でした。その世界観に魅了された瀬古さんが本にサインをお願いすると、なんと大越さんの口から「猫実珈琲店さん、知っています! 大好きな作家さんのカレンダーを毎年オーダーしているんです」という言葉が! 遠く離れた地で繋がっていた不思議なご縁から、今回の浦安での展示が決定したのだそうです。

お話を伺ったのは、銅版画で絵本を描く作家の【大越順子】さん。この秋に出版された『ナマケモノテーラー』の作者さんです。下書きから完成までに約4年を費やしたという渾身の超大作、今回は作品に込められたこだわりや制作の工程について、お話を伺ってきました。
描いて終わりではない。銅板に少しずつ刻む、絵の濃淡
店内には壁いっぱいに飾られた「ナマケモノテーラー」の世界観がちりばめられています。猫実珈琲店の店内の雰囲気にもぴったりで、モノクロの絵ではなく、銅版画が温かみを増し、優しい世界感を彩ります。一枚の絵を仕上げるのに要する時間は、なんと一週間以上。鉛筆で描く絵とは異なり、いくつもの複雑な工程を経て創り出されるのが「銅版画絵本」です。

銅版画で描くモノクロな絵本の世界
大越さんが用いるのは、銅板を酸で腐食させて版を作る「エッチング」と「アクアチント」という銅版画の技法です。まずは鉛筆で繊細な下書きを描き、構図を練り上げます。その下書き自体がすでに一つの作品のような完成度ですが、鉛筆特有の光沢感は大越さんの思い描くイメージとは少し異なるのだそう。

次にその絵を銅板へ移すのですが、ここも手作業による精密な工程。まず「エッチング」では、原画と見比べながら位置を見定め、手作業で忠実に描き写していきます。さらに防食剤(グランド)を塗り、ニードル(針)や細かい筆で線を入れてから酸の液に浸すことで、線を腐食させてインクが入る溝を作っていくという、果てしない工程が続きます…。
次に「アクアチント」では、およそ5段階の濃淡をあらかじめ想像し、部分ごとに腐食を止めるタイミングを変えながら制作していくのだそう。「作品の濃淡を生むのは、この工程の積み重ね」と、大越さんは話します。

「どこを明るく残し、どこを深い色にするのか。完成時の見え方を下書きの段階から思い描き、思い通りの表現になった時は『よし!やったぞ!』と、この上ない喜びを感じます!」と笑顔で話します。
モノクロの一枚の絵の中に広がる繊細なグラデーションは、途方もない手間と工程を重ねて生まれたもの。大越さんの豊かな想像力と確かな技術力、そして「この技法がとにかく好き」という情熱があるからこそ、見る人の心を惹きつける作品が生まれるのですね。手間暇を惜しまず描かれた世界だからこそ、モノクロの2色でありながらも、まるで何種類もの色彩が広がっているかのよえうな広がりを感じます。
言葉がなくても、絵は物語を語る
大越さんが目指してきたのは、映画のように、絵だけで物語が伝わる絵本なんだとか。
(大越さん)「もともとは文章を入れないスタイルで制作していました。フランスの出版社ではその表現が受け入れられた一方、日本では、言葉のない絵本を出版する難しさがあるんです。ボローニャチルドレンズブックフェアでは、モノクロ絵本の売り込みの難しさも感じました。」
今回の出版社ひだまり舎さんは、最低限のセリフを入れる形を提案してくれたそうです。文章で説明しきらず、絵を通して物語を届ける。その姿勢は、ページをめくる読者に、想像する余白を残してくれます。登場人物は、何を感じているのだろう。前のページから、何が変わったのだろう。絵を行き来しながら読み進める楽しさも、大越さんの絵本ならではの魅力かもしれません。

イタリア・ボローニャへの挑戦
2021年にフランスの出版社リラベル @editions_lirabelle から、大越さんが初めて描いた絵本「Concerto」が出版されました。ピアニストのくまさんと女の子と猫たちの特別な1日を描いた、言葉のない銅版画絵本です。

海外での出版につながるきっかけとなったのが、イタリア・ボローニャ国際絵本原画展への応募・そして入選でした。イタリア・ボローニャ国際絵本原画展は、プロアマ問わず挑戦できる場所で、世界中の絵本作家にとって最大の登竜門であり、最高峰の舞台。大越さんは、2016年と2018年、2度の入選を果たします。そんな特別な場所で大越さんの作品がフランスの出版社の目に留まり、絵本出版へのプロジェクトが動き出しました。コロナ禍による延期などを乗り越え、2021年に待望の初出版が実現。フランスで出版され、イタリアで印刷されたという大変貴重な一冊です。
「ナマケモノテーラー」
そして今年9月、ついに日本での出版が実現します。日本での最初の絵本が、今回の展示の『ナマケモノテーラー』。現在は全国各地で絵本原画展が開催されています。
モノクロの絵本出版は非常に珍しく、当初は難しいと思われていたそうですが、一人で運営されている出版社「ひだまり舎」さんとの素晴らしい出会いがあり、二人三脚で4年もの歳月をかけて一冊の銅版画絵本を作り上げました。

主人公に選ばれたのは「ナマケモノ」。普段から人間と動物が共生する世界観を描く大越さんですが、実は最初からナマケモノに詳しかったわけではなく、神戸の動物園に通ったり生態を細かく調べたりしながら、キャラクターを深めていったのだそうです。

ナマケモノさんは、毎朝散歩をして、花を摘んで帰ります。
家に帰ったら花を飾って、ひとやすみ。
家の中には大きな木!ハンモックでうとうとしていると、電話がかかってきました。
さあ、ナマケモノテーラーのお仕事が始まります。今日のお客様は誰でしょう?
銅版画で描かれる、ナマケモノテーラーの一日。静かな時間の流れる絵本です。
https://hidamarisha-ehon.com/
詳しくはこちらから

この物語に出てくるナマケモノさんは、素敵な服を仕立てる「テーラー(仕立屋)」。作中には、ネズミさんからオーダーされた燕尾服を作るシーンも描かれています。実は洋裁の知識が全くなかったという大越さん、自らプロの洋服デザイナーさん【@venvaddoo】のもとへ足を運び、丁寧な取材を行ったのだそう。作中に登場する型紙や糸、ミシンなどが忠実に再現されているのも納得です。ファンタジーでありながら描く世界観に妥協しない、大越さんの誠実で真摯なものづくりが伝わってきますね。また会期中には、デザイナーさんが絵本を忠実に再現し、燕尾服を実際に再現した作品も飾られていましたよ。リアルにネズミさんがいそう!
限定スイーツも

また、この展示を特別なものに彩るのは、作品だけでなく、「猫実珈琲店」の瀬古さんが作るコーヒーやスイーツなどの限定の楽しみも!「ナマケモノ」さんが食べる木の葉をモチーフにした作品クッキーや、木の実が沢山入った「ナマケモノスペシャルサンデー」、そして「スロースコーヒー」と題したオリジナルコーヒーも、店内でもいただけるんです。まさにテーラーのような深い味わい! 作品の世界に浸れる貴重な時間を、原画とともにも過ごせるんです。店内用以外にもお持ち帰り用も用意されていますので、お見逃しなくっ!

「ナマケモノスペシャルサンデー」はナッツ、栗、シャインマスカット、木の実クッキーと絵本に登場するフクロウクッキーに、アイスはバニラかチョコレート味を選べます。ナッツと栗の甘みが引き立ち、本当に森の中でいただいているような気がしてしまいます。深入りの「スロースコーヒー」との相性は抜群でした♡ ごちそうさまでした!

ピアノで思い浮かべる風景と、絵を描くこと
学生時代、実はピアノを学んでいたという大越さん。ご本人の中では「音楽」と「絵を描く」感覚が深くつながっているのだそうです。好きなのは、弾いているうちに目の前に風景が浮かんでくるような音楽。その感覚が、そのまま絵を創り出す作業にも通じていると語ります。
クラシック音楽が纏うヨーロッパの空気感と、銅版画で紡がれる情景が見事に調和しているのも納得です。音から風景を思い浮かべ、絵から物語を紡ぎ出す——。表現の手法は変わっても、想像の世界をどこまでも広げていく感覚は、今も変わらず彼女の制作の中に息づいています。

制作の背景を知ると、もう一度、絵を見たくなる
会場となる猫実珈琲店さんでは、作品の解説やサイン会が和やかに行われ、作家本人から裏話を聞ける原画展ならではの特別な時間が流れていました。大越さんが次に浦安に在廊されるのは、最終日の10月31日(土)のみ。今回直接お会いできない方も、作中のナマケモノさんのように焦らずゆったりと、作品の世界観を味わってみてはいかがでしょうか。
何段階もの濃淡をイメージし、丁寧に工程を重ねて生み出される銅版画絵本。その背景を知ってから開くページには、最初に見落としていた繊細な表現や、幾重にも重ねられた時間が息づいています。
「銅版画を知らない方にも、ふらりと訪れた場所で『こんな絵本があるんだ!』と知っていただけたら…」と話す大越さん。銅版画の世界をぜひとも知ってほしいと話します。繊細で美しいタッチが日々の忙しさを忘れさせ、心をふっと緩めてくれます。おやすみ前の読み聞かせにはもちろん、大人の方の癒やしの時間にもぴったりな、宝物のような一冊です。

大越 順子(おおごし じゅんこ) @junkoogoshi
1985年 、大阪生まれ。
大阪芸術大学演奏学科ピアノコース卒業後、大阪美術専門学校プリントメイキングコースで銅版画と出会う。
2016年、2018年ボローニャ国際絵本原画展入選をきっかけに、「Concerto」(Lirabelle)で絵本デビュー。
猫実珈琲店
@nekozane_coffee
浦安市猫実4-16-16
047-382-8584
日・月・祝定休 11時~18時
※『ナマケモノテーラー』絵本原画展は10月31日(土)まで!
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